2017年度 麻布中 国語・社会入試問題について
国語
「シカ」が主人公の物語が題材です。
「サンカク」は、「アニキ」、「マル」と共に暮らしていた野生のシカです。
「アニキ」を交通事故で失い、絶望の最中にシカと人間が平和に暮らす理想郷「ナラコウエン」の噂を聞きます。
長い旅路の果てにたどり着いた奈良公園は、確かに追われることも殺されることもなく、人間からエサすら貰える夢のような世界でしたが、同時に人間の都合によって良いように扱われている現実に気付かされます。「サンカク」は、その現実に疑問を持ち、ついに奈良公園を離れ、野生のシカとして誇り高く生きることを決意する、というストーリーです。
出典
「ロバのサイン会」吉野万里子(画像クリックでアマゾンのページに飛びます)
文章はこの物語文が一題の構成ですが、字数の多さ、問いの難しさは一筋縄でいくものではなく、単なる読解を超え深く広い思考能力が求められます。
問は全部で14題。漢字と選択2題、抜き出し1題を除き、記述が10題です。
本文を読めば分かるという問は少なく、共感と連想、それに「行間を読む」技術が要求されます。
「この状況なら、書いてはいないけれど理屈で考えたらこうなるだろう」という、全体の流れを踏まえた判断が必要になります。
例えば、設問の3。噂に聞いた「ナラコウエン」に向けて旅立とうとする場面。
「ありったけの勇気を振りしぼらなければ、この山をはなれて行くことなんてできない」のはなぜか、という問いかけです。
周辺には、相棒のマルがグズグズしていること、角が抜けたことで武器がなくなったことが書いてあります。ですが、こういう事情はあくまで追加的な要素であって、核になる心情は他にあります。
それは、住み慣れた土地を離れ、未知の場所に行くことの不安でしょう。しかし、本文にはそういうことが一切書かれていません。書かれていないから、別にそう読まなくてもいい、解釈は自由だ、とも思ってしまうでしょうが、入試の国語というのは常に「最も妥当な解釈」を求めるものです。つまり、「おれはこうは読まないけれども、一般的にはこう読むんだろうな。」という、自分の中で自己と他者を相対化できる高度なメタ認知能力を求めていると言っても良い。
したがって、難関と言われる中学を受験する場合、国語においては「他者への共感と理解」という一見学力と関係なさそうな心的能力をも身につける必要があります。「あの子はそう考えていて、おれはそうは思わないけれど、そう考えていること自体は分かる」という思考を、実生活や読書などを通して身につけたいものです。
社会
都市と住宅がテーマとして全体を貫き、前半が関東大震災後の都市再開発およびその頃にできた住宅がテーマ。後半は多摩ニュータウンの開発と現在の問題点がテーマです。
難易度はほぼ例年と同様で、麻布の特徴である、読解力や豊かな背景知識を求める問題が多く出題されています。
全体21問のうち、主に社会科的知識で答える問題を「知識」、社会科の枠を超え、広く社会一般的な常識で考える問題を「常識」、問題文を読み取る問題を「読解」として、それぞれ難易度別にA、B、Cに分けた表が下記です。
(難易度は筆者の私見で、Aが正答率80%以上、Bが40%以上、Cがそれ以下です。)
問題種別 | A | B | C | |
常識 | 2 | 4 | 0 | うち記述問題6題 |
知識 | 7 | 3 | 0 | うち記述問題1題 |
読解 | 1 | 3 | 1 | うち記述問題2題 |
「常識」というにはちょっと語弊がありますが、要するに受験生が様々な事象にアンテナを張り巡らせている生徒かどうかを見る問題が多く、しかもその全てが記述という状況です。
こと麻布の社会については、テキストをいくら繰り返し勉強しても得点は頭打ちでしょう。
例えば、前述の多摩ニュータウンの問題。年齢別人口構成グラフと地形図。
それぞれ昔と今の比較を見て、「現在多摩ニュータウンの人々が抱えている問題」を記述させるものです。
解答としては、「高齢化によって体力に不安を抱える住民にとって、丘陵地帯にある高低差の激しい地形は、徒歩での移動を困難にさせる」などになるでしょうが、全くの予備知識無しだとかなり厳しいのではないでしょうか。
高度経済成長期に造られたニュータウンの高齢化問題や、高齢者の方が抱える健康問題、生活の問題について、「どこかで聞いたことがある」という状態が求められる試験です。
こういう、日々の生活の中でどれくらいアンテナを張り巡らせているか、は麻布だけでなく、開成や武蔵など、男子の最難関中では非常に重要な要素になっています。